草花が芽吹き、多くの生き物たちの新しい生命が躍動する季節
知床らうすに春がやってきた。
キタキツネの夫婦も恋の季節を終え、忙しい子育てが始まった。
最初は人が怖かった!
でも、人間は危害を加えるわけでもなく、距離を保ち・・・気を付けてさえいれば大丈夫だった・・・
巣穴から眼下に見える羅臼の町、港へ行けば、何がしかのご馳走が落ちていたり、町並みからはいつも美味しそうな匂いが漂っていた!
ある夜、お母さんは子供たちに留守をさせ餌を捜しに羅臼の繁華街へ下りて行った!
そこには自分達に食べ物をくれる優しい人間たちがいたんだ。
最初は怖かった!
でも徐々にその優しさに触れ、人間はいつも自分を待っていてくれた。
やがて、父は去り…子供たちと一緒に通うようになった。
猫たちとの争奪戦はあったものの、自分達をいぶかしがる人間も遠巻きにするだけ!
もう親子にとって、人間は怖い存在では無かった
日々食べ物に不自由なく、秋になり、冬になり、もはや子別れの儀式は必要なく、永遠に続くと思われた平和な日々。
だが、親子に安寧の日々は長く続かなかった!
凍てついた冬のある日、殺気を孕んだハンターがやってきた!
眼鏡の奥から見つめる冷酷な眼差しは容赦なく親子を市街地の山へ追い詰める。
訳が分からないまま、兄弟が次々と知床の純白の上に崩れ落ちる。
やがて母親も!
なぜ?
キタキツネたちは悪かったのか?
冷酷なハンターが悪いのか?
知床の小さな港町にはもうあの仲睦まじい親子の姿は亡い!
世界自然遺産知床の厳しい寒さが仲睦まじいキツネ親子の語らいを失い、静寂に包まれる。